----普通だったらデメリットに捉えて落ち込むことも、全て自分のためになると考える姿勢は、選手としても指導者としても大切なことですね。
そういう意味では、大学時代は本当に良い経験をたくさんしました。私は当初から「選手も幹事(部の運営)も両方やりたい」との思いが強くあり、2年生から4年生まで両方を兼任していました。チームマネージャーとして合同合宿やスケジュール調整、部の代表としての外部との折衝も含め、裏方の仕事を全てやっていたのですが、選手だけしていたのでは出会えない様々な人と知り合えておもしろかったですよ。部を代表しての他大学とのやりとりや、学生課との連絡、遠征に利用するバス会社や宿舎の調整、試合前日の食事メニューまでチェックしたり。
この仕事は細かいところまで配慮できることがなにより大事。部員や監督から「これ、どうなってるの?」と質問されたらダメだと肝に銘じ、徹底的に先回りして準備を進めていました。こういった一つ一つのことも、指導者になった時に役立つという確信があったので、全てが勉強でした。 勉強したりサッカーをする時に、目標を持って取り組むことの大切さと、その手応えを子どもの頃から感じてきたので、いつもとても充実していました。
----そして、大学4年の時に、サッカー人生で記念に残る劇的な試合を経験するんですね。
そうなんです。夏の全国大会でのことです。鹿屋体大は前年度優勝校で、当然勝てると思われていた試合で、接戦の末、終了間際に1点入れられ、結果2−3で逆転負けするという苦い経験をしました。私自身、チームの調整にベストを尽くし、選手がプレーに専念できる環境作りのために万全を期してきた自負があったので、「自分の準備に何が足りなかったのか」と、何度も自問自答し、悔しくて隠れて泣いていたんです。そんな様子にキャプテンが気づいて、声をかけてくれた。その時のことは今でも鮮明に覚えています。「悔しい思いが強いほど達成した時の充実感は大きい。一生懸命の度合いが大きければ大きいほどに返ってくるものは大きい。失敗で終わっても得るものは大きいんだ」ということを、身をもって知ったように思います。この試合は、福岡のレベルファイブスタジアムで行われたので、今子どもたちを指導する中でも、このスタジアムで試合がある時には必ず、思いを込めてあの時の話をしているんですよ。
そうして迎えた冬のインカレでは、無敗で九州リーグ優勝。全国大会では、現在でもJリーグ川崎フロンターレで活躍しているスーパーエース率いる強豪校・中央大学と対戦しました。中央大戦では前半0−3の劣勢でした。しかし、終盤戦でチームの結束力が発揮され、結果は5−3で逆転勝利! 夏の悔しさをバネに、自分たちの努力や思いがパワーに変わる瞬間を見た思いでした。その時に、一つの目標に向かって皆が一丸となっていく過程のおもしろさ、チームビルディングのおもしろさを実感したんです。 この充実感を子どもたちに伝えたいと、改めて指導者になる決意を新たにしました。
----大学時代の活躍と実績が認められ、就職先としてJリーグのフロントのオファーもいくつかあったそうですが、全て断って指導者としての夢を貫かれたんですね。卒業後は福岡市のサッカークラブに就職し、念願の指導者としてのキャリアをスタートされたとうかがいました。
クラブには幼児から大人までが在籍し、私は主に小学生チームの指導をしていました。すでに出来上がっている上手い子どもを集めて指導するよりも、一から始めて切磋琢磨できるチームを作りたかったんです。ですから、まずは子どもたちにはサッカー以外の「準備」の大切さ、「思いを持って取り組むこと」の大切さを伝えてきました。これらは、全てのプレーに通じることなんです。
例えば、試合ではボールだけ見ていたらパスは出せない。ボールを受ける前に周りを見る、つまりボールを受ける前の「準備」が大切なんです。それができるようになるためには、日常生活の中でも準備を丁寧にすることが大事になってきます。試合日には、早起きして朝食をきちんと食べ、余裕を持って会場へ到着する。事前準備が大切だから忘れ物には厳しいですよ。忘れ物をしたら試合には出しません。おもしろいことに上手くなるために必要なこととして、こうしたことを具体的に伝えていくと、子どもたちは確実に変わるんです。
また、クラブではトップチームも、体力作りの範囲でサッカーを楽しみたい子たちも指導してきましたが、子どもたち個人のレベルではそれぞれに「頑張る」基準が違います。しかし、私は違いを把握した上で、子どもたちに「チームとして頑張る基準」を明示し、目標を少しずつあげていくことでチーム全体のレベルアップもはかりました。そうすると、最初は試合でボコボコに負けていたチームが、ある時から接戦になり、勝つようになってくるんですよ。そんなふうに実践して成功体験を重ねていくことで、成長していくんです。保護者からも「サッカーをするようになって、普段の生活でもタイムマネジメントができるようになった」「準備を大事にするようになり、生活や学習態度も変わった」との声がよく聞かれたのも、そのことの表れだと思います。
-------16年間の指導経験を積み、いよいよご自身の理念を実践する「福岡西フットボールアカデミー」を2019年7月に設立されたわけですが、今後の目標や夢を教えてください。
子どもたちにはそれぞれ成長のペースがあり、体のつくりや性格も含め、早咲きの子もいれば遅咲きの子もいます。個人の性格や技術面、学年、チーム全体の雰囲気を多角的にみて型にはめない指導をすると同時に、小一からでも明確な基準を設けて勝利を目指すトレーニングをしているのが当クラブの特徴です。
私は、指導においてはTeachingとCoachingのバランスがとても大事だと考えています。基準を示して指導し(Teaching)、できることが増えていけば、さらにその先へ導くこと(Coaching)ができると思うのです。例えば、「カバンをきちんと置こう」という基準を示し、置けるようになったら「きちんと置くってどういうこと?」と、その先へ展開していくわけです。生活面、プレーの面でもそういったことを繰り返すことで、子どもたちは自分で考え行動できるようになっていきます。
「想い」を強く持てば、目標もハードルも当然高くなります。でも、一つ一つの経験を積み上げていく先に目標の達成も勝利も待っていることを、私は実感として知っています。だから、子どもたちには、プロ選手になってもらいたいというよりも、プレーも生活も全部が豊かになったからプロ選手になっていた、という選手になってほしいですね。サッカー選手というだけでなく、人として目標を達成してほしい。
チームとしての目の前の目標は、全国クラスの大会出場、そしてその全国クラスの中で勝ち抜くこと。実際、学年によっては九州各県のトップと競い合えるようになりつつあります。そうして、このチームを卒業した子どもたちがいつか大人になった時、あなたのベースはどこにあるかと聞かれたら、「小学校の時のサッカーです」と自然に口をついて出てくるような、そんなチームでありたい。それが未来へ向けた、これからの私の夢です。
『挑戦しなければ結果は生まれない 努力しなければ感動することはない』この言葉を胸に、挑戦し続けていきたいと思います。